新しい方式による半導体表面の微細測定装置
1.目的
「半導体表面の微細測定装置」の目的は、パターンつきの半導体チップの膜厚、屈折率を2次元的に画像として測定することです。
この装置は、ある方位角を持った入射偏光がサンプルにあたると、その膜厚と屈折率に応じて反射光の偏光状態(楕円偏光の主軸の方位と楕円率)が変化する事を検出するエリプソメトリイを原理としています。
従来のこの種の装置はサンプルの1点を測定していましたが、当社はサンプルの表面を画像として測定することをコンセプトにして各種の仕様の装置を開発してきました。
この装置はユーザーのニーズに沿って進めるという観点の重要性を認識し、工場の生産ラインへ導入され得る製品開発を念頭に、新しい構想の機械を設計作成し、現在ほぼ測定可能の段階に到っています。以下ではこの新方式に関する説明をいたします。
2.仕組み
この方式は異なる偏光状態にある3色の光源を同時にサンプルに照射するところに大きな特徴があります。反射側の検光子の方位角を固定したとき、入射側の偏光子の方位角の関数として、試料からの反射光強度はサインカーブをなします。したがって3個以上の1次独立な方位角の偏光での測定を行えばよいことになります。
基本的なアイデアとしては、この偏光方位角の最低変数3のマーキングとして光の3原色を利用します。たとえば赤の光を-45゜、緑を0゜、青を45゜に方位角を固定した偏光子をとおし、プリズムによって1本の共通光路にして(3色の強度が等しいときは白色光となる)、試料に斜めに照射します。そして、検光子を通過した反射光をCCDカメラで撮像します。そのとき赤の光の強度は、-45°の偏光の反射率を表します。(他も同様)。現在のカラーCCDカメラは十分なダイナミックレンジを持たないため、当面は白黒カメラを用い光源を高速にスイッチングしてそれによって得られる3枚の画像を加重積算しています。そのとき各々の画像のデータにかける係数を適当な値に設定すれば、積算した結果として直ちにデルタあるいはプサイを得ることが可能となるのです。
このように、反射光の色度を測定することは異なる方位角の入射光に対する試料の反射率を測定することと等しく、それは測定中に偏光子を回転させたりする工程とそれに伴う誤差もなくし、従来それに要していた時間の短縮も可能にするのです。
エリプソメータの測定においては、1.反射側検光子の方位角の関数としての反射光量の測定 2.1のデータからの反射楕円偏光の計算(デルタ、プサイの計算)3.サンプルの構造に関する知識を利用しながら2のデータからの膜厚、屈折率の計算、の3段階を経て行われます。必要とされる時間は1は検光子を回転させて光量測定に要する時間(数分)、2はサンプルの1点あたり数マイクロ秒、3はサンプルの1点あたり数10ミリ秒です。1点式の装置ではこれら時間はすべてサンプルの測定点数に比例しますが、2次元式の装置においては1の光量測定は1画面を一括して行えることになります。そして本方式では、1と2を数秒で終わらせることができるのです。
本方式においては、いずれか1色の入射光源のみを使用し、反射側の検光子を回転して測定することによって、630、580、430nmでの測定が可能であり(擬似分光測定)多層膜の測定などに有効に使用できます。
装置の具体的な数値は、
1.ユーザーのニーズにより面内分解能を1μmに設定。
2.測定装置の大きさはラインに配置できるようテーブルサイズ以下で設計。
3.測定時間は数秒。
以上のための技術的内容は
1.反射側の光学系の設計。
斜入射における面内の画像のひずみも最小限化。
2.多層膜測定の為の拡張された誤差項の計算式の開発。
3.計算のアルゴリズム
従来エリプソメータは、一定波長の光源による反射側の偏光子を異なる方位角にする回転検光子方式でしたが、本方式は入射側の偏光子を異なる方位角に設定し、かつ光源の波長を異なる値にして測定します。これは、そのための計算式を含むアルゴリズムです。
4.レンズ系によって生じた反射光の偏光方位の回転を補償するアルゴリズム。
3.経済性
従来よりエリプソメータを半導体工場のラインの検査装置として導入したいというニーズは広くもたれていました。しかし、他社のこれまでの装置は性能面に問題があるだけでなく、測定にあまりに時間がかかりすぎるために、ごく限定された範囲でしか使用されてきませんでした。
それに対し、当社の2次元式の装置は、さらに画像全体の各点でのデルタ、プサイの計算までを数秒以内で終えることを可能にしました。デルタ、プサイの値と膜厚、屈折率の値とは1対1に対応するのでデルタ、プサイの値のみで工場のライン上での品質管理を行うことができます。(もちろん必要であれば膜厚、屈折率の計算を行うこともできます。)
したがって本装置を導入することによる経済効果は大きいと予測されます。
4.公益性
本装置は半導体製造関連装置が全体として目指すべき下記の社会経済的効果に寄与すると考えられます。
1.歩留り向上によって省資源と工場の電力削減になり、地球温暖化問題の対策になる。
2.半導体チップの高集積化とコストダウンに寄与する。
3.新デバイスの垂直立ち上げに寄与する。
4.2と3によって迅速な投資回収と利益確保が可能となる。
また、本装置を欠陥検出装置として使用する場合,その産業的な重要性は極めて高いと予測されます。既存の欠陥検査装置に対するデバイスメーカー各社による評価は、「技術改良を望む」ないしは「根本的な技術革新が必要」とされており、このことは既存の欠陥検査装置に依然として改善の余地があることを示していると考えられます。一方、本方式では、従来はほぼ不可能であった異物と欠陥のリアルタイムでの分類が可能となります。
また、CSPのようなパッケージングにおいても、ボンディング不良の検査装置として金属表面の酸化状態の測定にも有効であると期待されます。
謝辞
本プロジェクトは財団法人 新技術開発財団 の資金援助によって行われました。